診療所の経営・相続Q&A「Withコロナ・Afterコロナで変わる、クリニックのキャッシュレス決済」
世の中の流れとしてキャッシュレス決済が推進されています。利用する側としては、スマホアプリ決済やクレジットカード払いなど便利に活用しています。しかしながら、クリニック経営者の立場からすると、導入までの手間や、割高な手数料など、良いイメージがありません。医療機関における導入のメリットは何ですか。
解説:日本経営ウイル税理士法人
近藤 みさき
医療機関が導入に踏み切れない理由
キャッシュレス決済におけるメリットは、皆様も金融機関や営業担当の方からご提案されたことがあるのではないでしょうか。一般的に次のようなことが挙げられます。
①他医療機関との差別化
②患者さんの現金の事前準備が不要
③会計待ち時間の短縮
④業務効率化
しかしながら、クリニックでのキャッシュレス決済の普及率はまだ低く、他の業界からは大きく遅れをとっているのが状況です。
多くの施設でキャッシュレス決済が進むにつれて、患者さんの生活スタイルも否応なく変化してきています。
しかし、医療機関には導入に踏み切れない理由があります。
「キャッシュレス決済よりも現金で支払う人の方が多い」
「導入のために設備費用がかかる」
「キャッシュレスシステムを導入するのが面倒」
本稿では、キャッシュレス決済導入に踏み切れない理由について、一つずつ検証していきます。
キャッシュレス決済を利用したいが、出来ない場所
一般社団法人キャッシュレス決済推進協議会という団体があります。
ホームページで「キャッシュレス・ロードマップ2020」を公開しているのですが、これによると「医療機関におけるクレジットカード利用率」は6%、キャッシュレス決済の導入が進んでいないことが分かります。
一方、「消費者・事業者インサイト調査」によると、「キャッシュレス決済を利用したいが、利用出来ない場所」として、スーパーマーケットや役所・自治体を抜いて、病院・診療所・歯科診療所の医療機関が上位を占めています。
つまり、「現金で支払う人の方が多い」とは、もはや言えない状況にあるのではないでしょうか。
費用を高いと見るか、高くはないと見るか
一言で「キャッシュレス決済」と言っても、その手段は多様化しています。
代表的な支払い手段は以下の通りです。
- 電子マネー
- デビットカード
- クレジットカード
- スマートフォン(QRコード・バーコードで支払う決済アプリ)
クレジットカード決済については、多くの決済代行会社が導入の初期費用を無料にしています。また、クレジットカードの手数料は、患者さんの負担額の3%程度、診療報酬の全体の金額に対しては1%程度になります。
さらにスマホ決済(いわゆる○○PayのようなQRコード決済アプリ)については、導入費用や手数料が一切かからないケースもあるようです( 各企業によって初期費用やポイント還元等の条件が異なっていますので、詳細を確認の上、検討する必要があります)。
このような費用を、高いと見るか、高くはないと見るか。
今後、キャッシュレス決済が進む中で、判断が必要になってくる可能性はあるでしょう。
得られる価値は何か?
ところで仮に導入するとしても、様々なキャッシュレス決済サービスがあるなかで、クリニックに合った決済方法を探さなければなりません。
重要なのは、心理的コストに対して、得られる価値は何かということです。
特に今、重要な目線としては「Withコロナ、Afterコロナの影響」です。考えられる影響は、下記の2点です。
①「接触」や「感染防止」に対する考え方の変化
コロナ禍において、メディアでは「接触」や「三密」を防止するような呼びかけが頻繁にされています。
スーパーやコンビニでは感染防止の施策として、キャッシュレス決済が推奨されています。すでに「接触」に対して抵抗のある人は、かなり増えています。
医療機関は、感染拡大のリスクを少しでも減らしておかなければなりません。キャッシュレス決済だけでなく、自動精算機や自動受付など非接触型の導入の検討も現実味を帯びてきました。
②オンライン診療の普及
今回のコロナ禍では診療報酬で特例的にオンライン診療や電話診療について、要件が緩和されました。
その影響もあり、医療機関側では「オンライン診療が増えた」、患者側では「今後もオンライン診療を利用したい」という声も少なくありません。
今後、オンライン診療がどこまで定着するかはまだ分かりませんが、流れによっては患者流出につながる可能性もあります。
そして、オンライン診療には、キャッシュレス決済は必須です。
単に利便性ということでなく、患者さんの生活や感染に対する意識が変化している中で、キャッシュレス決済の導入を検討してみてはいかがでしょうか。
解説:医療事業部 近藤みさき
本稿はご回答時点における一般的な内容を分かりやすく解説したものです。実際の税務・経営の判断は個別具体的に検討する必要がありますので、税理士など専門家にご相談の上ご判断ください。本稿をもとに意思決定され、直接又は間接に損害を蒙られたとしても、一切の責任は負いかねます。
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医療・介護
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